女の子がきらきらしている姿をみるのが、陸奥はとても好きだ。目は大きく輝き、足をぶらぶらとさせ、にっこりと微笑む。誰が見てもかわいいと思うだろう。彼女たちは、幸せを全身でアピールしている。
猿飛あやめの今の状況がまさにそれだった。全身から力がみなぎっている。もちろん、陸奥はそのあやめをかわいいと思うし、眺めていて飽きないとも思う。逆に、陸奥がそうなることはありえないことだった。好き、というよりは、どこかで羨望もあるのかもしれないが、陸奥はそれには気がついていない。それが幸せなことかそうではないのか、誰も知らないことだ。


「何でも好きなもの食べてちょうだい。今日は私がご馳走するから」
「うおおーさっちゃん太っ腹アル!私カルボナーラとハンバーグ定食とカレー!」
「ただし、一品だけよ。いくら私が優しいからって、破産したら元も子もないじゃない」

神楽は不満そうに口を尖らせながらも楽しそうにメニューを選んでいる。九兵衛やそよはファミリーレストランにくること自体が珍しいようで、興味ぶかそうにメニューをめくったり「私までご馳走になってしまっていいのでしょうか」とあやめに気をまわす。妙はドリアにするかサンドウィッチにするか決めかねている。陸奥はすでに決めたようで、メニューをパタンと閉じた。

「あら、陸奥さんはもう決まったの?」
「わしはとんかつ定食にするき」
「随分がっつり食べるのね」
「おんしは何にするんじゃ?」
「私は胸がいっぱいだから、サラダだけでいいわ。ダイエットもしなきゃいけないし」

あやめは先ほどからくちもとを緩めっぱなしだ。陸奥は向かいからそれをじっと見つめている。眩しくて、強くて、ひどく脆いと感じた。自分もそこに置かれていることを自覚しながら、陸奥は思春期を思う。
あやめの言葉を聞いて、神楽がメニューから顔をひょっこり覗かせた。皆 動きをとめて、あやめを見る。

「さっちゃん何かいいことあったアルか?」
「やーねぇ神楽ちゃん。猿飛さんがそういうこともなく私達にご馳走してくれるわけがないでしょう?」
「あの、何があったんですか?」
「ふふふ、皆に言いたいけど、内緒。だって相手に迷惑をかけちゃうもの」
「相手って…銀八先生か?」

九兵衛がその男の名前を挙げるとあやめは顔を真っ赤にさせ、しかし再びにっこり笑った。

「何があったかは、みんなにも、言えないんだけど、ね」
「さっちゃんあんなマダオのどこがいいアルか〜?いくらさっちゃんがドエムだからって、こんなにグラマーなのにもったいないネ」
「まだまだね神楽さん。先生はかっこよくて、素敵で、とても優しい人よ」
「猿飛さんは、本当に銀八先生のことが好きなんですね」
「うふふ」

あやめは照れ隠しなのか、ボタンを押し、店員を呼んだ。ドリンクバーを人数分とそよをのぞいた全員分の注文をする。そよはまだきめていなかったらしく、慌ててメニューをめくったが、最後に「とろとろお月見オムライスお母さん風をお願いします」と微笑んだ。




「私、心配なのよ」

猿飛さんのこと。帰り道の関係上、陸奥と2人きりになった妙はそう付け足す。はあ、と空気中へ吐き出した息はまだ白くならない。これからまだまだ寒くなると陸奥は頭のどこかで考えながらマフラーに顔をうずめる。陸奥は寒がりなのだ。

「もちろん、先生はいい人だと思うの。だけど、少し…じゃなくてだいぶ、いい加減でしょう?」
「100歩譲っても反論はできん」
「猿飛さんは本気だけれど、先生はきっと、いえ絶対 本気などではない。手を出したとしてもその場限りなんじゃないかしら」

潔癖、という言葉が陸奥の頭の中に浮かんだ。志村妙という女性は、女性という生物を尊敬し、愛している。女性を軽く扱う人間を心から憎むのだろう。窮屈なフェミニスト。

「おまんは本当に好きなんじゃな」
「猿飛さんのことが?」
「そして坂田銀八が」

妙は目を見開き、口を開こうとするが、すぐににっこりと微笑みをつくった。妙の微笑みは、あやめのそれとはまるで違う。優雅で上品で、どこか淋しい。大人にはできない、少女だからこその表情。陸奥の微笑は、誰もみたことがない。

「わしも坂田は嫌いじゃないぜよ」
「ふふ、私達 馬鹿な女ね」





(Beautiful World)
陸奥・妙・さっちゃん・神楽・そよ・九兵衛(3Z)
2007.10.30
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結局のところ、みんな銀八せんせいが大好きなのです という話
そしてそよちゃんにファミレス特有の恥ずかしいメニュー名を言わせたかったのです。
高校生の女の子達には、彼女たちしかもてない美しい世界がある と思います
それは、いつか終わりがきてしまう きらきらひかる世界