最近、沖田は道を歩くときに自ら好んで右側を歩く。他の星の風習だかなんだかは知らないが、少なくとも江戸では左側通行が一般的なのだ。真選組といえども一応警察、交通ルールは守るべきなのかもしれない。最も、土方がそれを注意する気もない。(土方自身、数々の交通ルールを破っているのだ)

「おめーはほんとに物好きだな」
「おめーに言われたくねェよ死ね土方」

 かわいくねェ、と思いながら土方はタバコの煙を吐き出した。さほど広くはないが、道を挟んだ端と端で歩く。けんけんぱ、とでもするかのように歩く沖田のことを、土方は理解できないし、しようとも思わない。二人の間を子供が笑いながら走っていく。そうだ、こいつはまだガキなのだ。総悟の奇行は今にはじまったことじゃねェ。えらく機嫌がよさそうな沖田に、土方は不愉快になる。



 市中見廻りのときに、何故この国の人間は皆左側通行なのか考えたら、気になって夜も眠れなくなったので、夜中に山崎を起こして尋ねた。眠気眼の山崎は、う〜ん…とうなってしばらく考えた後、「心臓が左にあるからじゃないですかね」と答えたのだった。「右側通行だと、心臓と心臓が隣り合わせになっちゃうから。斬られたら死んじゃうじゃないですか」
 その話を聞いてから、沖田は右側通行を心がけている。右側通行は楽しい。心臓を守るという本能から逆らう抵抗感と、前方から来た人間とぶつかりそうになるとき、ちょっとした狂喜を覚えるのだ。
 後ろを振り向くと、道の反対側を歩く土方が、ちょうどタバコを捨てたところだった。「土方さん、いけねェや。ポイ捨ては罰金一億円でさァ。死んで償ってくだせェ」「ならおめーは罰金五億円だな」「聞きました皆さん?この男、いわれのない罪を俺になすりつけようとしやがった!最低〜」「最低なのはてめーだ!」

 うふふ。沖田は笑う。とっても気分がいいのだ。鼻歌まで飛び出てきてしまう。土方が気持ち悪そうに見ているが、そんなことは気にしない。ねえ、こうやってハンデをあげるから、早く誰か、俺のことを斬ってちょうだいね。この国が、完全な右側通行になってしまう前に。





(僕の心臓を斬ってね)
土方と沖田
2007.8.22
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江戸時代は左側通行が一般的だったので銀魂でもそうしちゃいました。
普通に、刀を抜きやすいからって理由ですかね。
気がつけないはずの本能に逆らう沖田くんが書きたかったのです。
後に説明しないと話がつながらないの、いい加減にしたい…!