「それで、むっちゃんは誰が好きアルか?」

神楽にいきなり話(しかも随分ヘビーな)をふられ、陸奥は手にしていた化粧水を思わず落とした。ボトン、という音とともに畳へじわじわと液体が染みていく。慌ててそれを拾い、タオルで畳をおさえると、妙は「あらあら動揺しちゃって。かわいい」と笑う。

「…いきなり何ちや?」
「修学旅行の夜と言えば恋バナに限るネ!」
「それならわしじゃのうて猿飛のほうがえいろう」
「さっちゃんのは恋じゃなくて病気アル」
「あら、私の先生への気持ちは恋でも病気でもなんでもないわ、全てを受け止める愛よ!」
「おめーの話はどうでもいいんだよ」

乳液を顔につけ終えた妙は、神楽の隣の布団に座り、目の前のあやめを枕で叩いた。2人が言い争いをしている声を聞いても、陸奥はいまいち状況を読み込めていない。
修学旅行の初日の夜。つい先ほどまでは皆洗顔したり、歯磨きしたり、寝る準備をしながら、明日の見学所の話・旅館の話・消灯まで見ていたテレビの話・夜はUNOをやるかトランプをやるかという話、をしていたはずだ。恋の「こ」の字も話題にあがっていなかった。
言い争う2人のことなど気にせず、神楽は答えを待ち望むかのように、にこにこしながら陸奥を見ている。いつもおだんごにしている髪はほどかれ、洗った後に乾かしていないのだろう、白い肌にぺたりとはりついていて、陸奥はそれを綺麗だと思う。神楽から恋の話題が出ることは意外だったが、この姿を見ると、この子もそこらへんに溢れている高校三年生の女の子と何ら変らないのかもしれない…頭はおかしいけど…と思ってしまっても仕方がなかった。それくらい、今の神楽はかわいらしい。

「おんし、今日の夜はUNOをやるがなかったか?」
「UNOは学校でもできるネ!隣の部屋は恋バナでキャーキャーしてたヨ!」
「隣…」

そういえば先ほど、神楽は「お菓子もらってくる!」と言って隣の部屋へ襲撃をしていた。陸奥たちの隣の部屋には、公子・キャサリン・阿音・百音が宿泊している。なるほど。確かに、彼女たちなら夜中飽きずに恋の話でもしていそうだと思う。

「この部屋でまともにそんな話ができるのはむっちゃんだけアル!」
「私も気になるわ、あなたが誰を好きなのか」
「…はっ、まさか銀八先生?残念ね、先生にはもう私という人が…」
「「黙れ」」

あやめに、妙と神楽からダブルで枕が飛ぶ。ふたつの枕の下から「め、めげない…」という小さな声が聞こえてきた。今更陸奥も心配する気はない。

「悪いが、好いとる奴はおらん」
「えー何言ってるネ!今更隠し事はなしヨ」
「隠し事じゃないき」
「つまらない女ね陸奥さん。恋のひとつやふたつしたほうが女はきれいになれるのよ」
「確かにおまんはかわいいのう」
「あら、私はてっきり、高杉くんか坂本先生かと思ってたわ」

妙の発言に陸奥は今度こそ言葉を失う。
高杉か坂本。
確かに陸奥は、自分が2人と他人より親しくしているとは思う。高杉とは部活も一緒だし、よく共にサボるし、一緒にいて落ち着く。坂本のことはそもそも教師だなどと思っていない。小学生の頃から知っている大馬鹿で、共に過ごす時間も長く、自分に対して過保護だとは思う。だが、それ以上でもそれ以下でもない。陸奥が否定しようと口を開こうとすると、先に神楽とあやめが畳みかける。

「ええー!むっちゃん、そうだったアルか!」
「不良と大馬鹿の二股…!ま、負けたわ…大人なのね陸奥さん…」
「二股アルか!?不良と大馬鹿で二股アルか!?むっちゃん考え直したほうがいいネ…」
「やめなさい神楽さん、見苦しいわよ。陸奥さんが選んだ人じゃない。私達に口出しする筋合いはないわ…。どんな相手でも受け止めて、見守りましょう」
「ちょ、ちょい待ち!高杉とも坂本とも、ほがな関係がやない。考えられん…」
「まあ、私はとってもお似合いだと思うけれど」
「志村…ほりゃあおまんが近藤と付きあっちゅうと言われるようなもんじゃ」
「…」

妙は無言のまま何も答えない。陸奥はそれをわかってくれたという合図と受け取る。神楽もあやめも「何だよー」と残念そうに陸奥を見た。そんな顔をしたところで、自分が高杉や坂本と恋愛関係になるわけでもないのだからやめてほしい反面、かわいいと思う。

「この面子で恋バナなんて無理じゃ。諦めやー」
「ちえぇ…つまらないヨ!お前らなんでそんなに色恋沙汰ないアルか」
「だから、私はあるって言ってるじゃない!聞かせてあげてもいいのよ、私と先生が奏でる壮大な愛の狂想曲…」
「神楽ちゃん、仕方ないわ。諦めましょう」
「そうアルね…UNOやるヨUNO!!」

妙も神楽もそして陸奥も、再度あやめを無視し、布団の真ん中へ集まる。あやめも「あなたたち、自分が恋してないからってヤキモチやいてるのね」とかなんとかいいながらも、神楽の配るUNOを受け取った。「何かけるネ?」「賭け事なのか…」「そうよ、これは女の熱き戦いなのよ陸奥さん」「アイスクリームなんてどうかしら」「賛成アル!燃えるネ〜!」学校指定のださい体操着で、すっぴんで、さらにUNOごときでわいわい騒ぐ女たちを、陸奥は心からかわいいと思う。高杉や坂本といる時間も陸奥にとっては必要だが、彼女達といる時間も大切だ。少なくとも、高杉や坂本などと付き合うのならば、この3人のうちの誰かとキスでもしたほうが良い。そのほうが本望かもしれない。そう思えるくらい、このラプンツェルたちはかわいくて、愛おしい。





(ラプンツェルたち)
陸奥・神楽・妙・さっちゃん(3Z)
2007.7.23
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ずーっと書きたかった、女の子たちのおはなし!3Zで!
小説に影響されて、修学旅行そして坂本先生です(…)
かいていてとっても楽しかったので、また女の子で書きたいと思います!