「幽霊を信じるか、陸奥」

陸奥は読んでいた本から顔をあげ、高杉を見る。伸びた前髪から覗く目をじっと見つめ、陸奥は「信じん」と言った。高杉の口元がにやりと緩む。

「というより、いようがいまいがどっちでもいいき。わしには関係ない」
「つまらなすぎて陸奥らしい答えだな」
「わしはおんしのようなロマンチストではないんじゃ」

話が長くなりそうだ、と踏んだ陸奥は、読みかけの本に栞をはさみ、そっと閉じた。使い古し、年季が入った革のブックカバーに触れる。高杉が、入学してすぐに陸奥に手渡したものだ。「俺よりお前のほうが似合いそうだから」という理由で自らの本から外し、勝手に陸奥の本へ装着した高杉を、陸奥は今でも覚えている。確か、高杉が読んでいた本は、江國香織だったはずだ。

「ロマンチストって言い方はやめろ。土方みてーで嫌だ」
「わしから見たらおんしも土方もみーんなロマンチストさんじゃ」
「そりゃあ幽霊なんてどうでもいいと思ってる陸奥から見たらそうかもしれないけどな」
「どうせおんしは幽霊がいると思っとるんじゃろ?」

高杉は再びにやりと笑い、陸奥の前の席に移動し、窓の外へ目を向ける。校庭では、二人が出席しなければならないはずの体育の授業が行われている。

「もしかしたら、辰馬も、銀八も、ヅラも幽霊かもしれないぜ」
「また突拍子もないことを」
「あそこの校庭にいる奴全員幽霊かもしれないし、その逆に俺ら二人が幽霊かもしれない」
「だとしたら何なんじゃ?」
「幽霊なんて決まった定義がないんだから、判断することなんてできねーだろ。俺は今全て人型のものを例としてあげてるけど、もしかしたら形なんてものはないかもしれないし」
「それじゃあ、さっき言っとったように、わしとおまんだけが幽霊、もしくは人間だったらどうするんじゃ?」
「別にどうもしねーよ。おもしれーじゃん。このままのほうが。それともお前は逃避行でもしたいか?」

陸奥が「おんしとはごめんじゃ」というと、高杉は「そうか」と再び窓の外を見た。ソフトボールの授業をやっているのか、カキーンという気持ちのよい音がなり、生徒達の歓声が遠くから聞こえる。風が高杉の前髪をそっとさらい、目が合った。「すでに逃避行してるようなもんだけどな」授業の終わりまではまだ20分以上。陸奥は高杉をかわいいと思う。





(ゴースト)
高杉と陸奥(3Z)
2007.6.10
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3Zの高杉と陸奥は仲良しさんだといいです。
二人で授業をさぼったり、同じ本を読んだりとか。別に交際しているわけではなく。
そして二人ともそれなりに辰馬へ依存してればいいと思います。