「伊達、おんし、わしと話ばせんか?」 たまたま通りかかった女に坂本は声をかける。彼女はむっとした表情をしながらも坂本の元へ近づいた。ふてぶてしい女であるが、坂本はそのように我が強い女子が嫌いではない。 「坂本先生、準備でお忙しいがやないなが?わしごときと話しちょる暇はないろう」 「そんなことないき。交流ちゅうのも立派な仕事じゃ」 「それと」 「それと?」 「わしは伊達ちゅう名前はやめた」 「ほう。それほんならなんちゅう?」 「陸奥」 彼女―陸奥はそう言って坂本をにらみつけた。相変わらず、ふてぶてしい態度だ。 入隊希望、と面接をし、藩名を偽ったのが昨日で、今日話しかけてみれば名を変えたという。おもしろい女だと坂本は思った。陸奥は、ふてぶてしい態度とぴくりとも動かない表情、そして口さえ開かなければとても美しい。整った顔立ちに長い睫、小さな口元にシャープな輪郭。さらりとした涼しい髪に坂本は触れてみたいとさえ思う。坂本が陸奥を観察している間、彼女は怪訝そうな視線を彼に投げかける。そして一言「えぐい顔じゃ」。陸奥も坂本を観察していた。そのことに、坂本は大声で笑った。愉快じゃ、と。陸奥はますます顔をしかめるが、坂本の笑い声はおさまることを知らない。 その後、坂本は陸奥を右腕に指名した。陸奥は仏頂面のまま「何故なが?」と問う後すぐに「おんしのせいで早死にしそうやか」と言う。表情をかえぬまま。坂本はアハハと笑って答えとした。彼らがつくりあげていく海軍塾は、後に名を変え宇宙を駆け抜ける大貿易会社となる。いわゆる快援隊だ。 (笑わぬ花嫁) 坂本と陸奥 2007.2.3 -------------- 前に銀魂の陸奥が土佐弁使っているのっておかしい、みたいな手紙が空知さんにきてたけど、 おそらくそれって「竜馬がゆく」で陸奥宗光が最初土佐藩の出です、っていってたからじゃあないかしらと思います。 陸奥は性格が悪ければいい。というか、口が悪ければいい。 それでいて弁がたって頭がいいものだから、ちょっと疎まれる感じ。 でも辰馬の下の快援隊だから、そんな陸奥も受け入れられて必要とされるんだと思う。 |