「山崎」

土方は煙草を吸ったまま山崎の名を呼ぶ。目は先ほど山崎が仕上げた書類に向けられたままで、山崎の姿を見ることもない。一方声をかけられた山崎は、正座をしたまま土方を見ている。けして大きいわけでも黒目がちでもない、わりとさっぱりとした印象を持つ山崎の眼球が、ただ、見つめている。その目はじっとりとしていて、まるで梅雨を連想させるようだ。普段の間抜けの彼からは想像もできない目だが、これがある意味では彼の仕事のときの目なのだ。

「ご苦労だったな」

パンパン、と書類を整え、土方はそれを封筒にしまう。そしてはじめて山崎を見るのだ。鋭くとがった目で、視線を交わせる。土方のそれは山崎の「じっとり」とはまた違う。刺すような視線だ。目があっただけで、動けなくなってしまうような、そんな力を秘めている。はたから見れば、まるで憎みあっているかのように見えるだろう。そんなものは最早超越してしまっている。憎しみも、愛情も、そこには存在していなかった。

「ところで山崎。近頃小池が度々外出しているって聞くが」
「そうですね。隊士の間では女と言われています」
「そうか」

土方の怖いところは、彼はこの何百といる隊士たちのことを何でも知っているということだ。もちろん、いいところも悪いところも。ただの鬼ではない。現実を理解し、その上で行動している鬼だ。
土方は、何も言わずに山崎を見ている。山崎が「わかりました」と答え、立ちあがった。何も言わなくてもわかる。小池という隊士を洗い出し、噂の女というのが『長州藩』で、彼は間者ならば斬れ、ということだ。いちいち口には出さない。しかし山崎には伝わる。土方はそういう山崎に絶大な信頼をよせている。

山崎は、軽く礼をしてから部屋を立ち去った。その間も、土方はずっと山崎の姿を見ている。あの目で。





(いってきます)
土方と山崎
2007.1.31
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関係ないけれど、新撰組血風録のような「山崎君」ってよぶ土方が好みです。
できたら小池(勝手に作りあげました)も「小池君」って呼んでほしいです。
でも銀魂の土方はにあわなさそうなのでやめました。