「東仙隊長だけずるいっすよ!」

海燕の、あまりにも勝手な言い分に東仙と檜佐木は驚いて顔を見合わせた。今更のことだが、やはり海燕は変わっている。



三人は任務のために現世へきていた。義骸を使って街を歩く。めずらしいことではない。しかし、久しぶりの現世に海燕ははしゃぎきっていた。きょろきょろと街中を見渡す海燕は、人間から見ればずいぶんと田舎モノのように感じられただろう。その海燕がストリートパフォーマンスに気をとられたうちに、その事件は起こった。東仙の元へ、ひとりの女性が寄ってきた。なにやら軽い会話をして、女性は東仙の手に何かを握らせる。東仙が呼び止めるヒマもなく、女性はすぐに立ち去ってしまった。

「隊長、どうしたんですか?」
「ああ。これだよ」

東仙が苦笑しながら檜佐木に見せたのは、くしゃりとあとがついた五千円札だった。「どうも、私は現世ではかわいそうな男に見えるらしい」と東仙は言う。東仙のことを盲目だと気がついた女性が、寄付のような感覚で五千円を渡していったのだろう。今までなかったことではないので、檜佐木も軽く笑い返した。
このお金は募金でもして帰ろうか。東仙がそう話してるときに海燕が帰ってきたのだ。海燕は東仙の手の中の五千円を見つけ、先ほど起こった一連のできごとを檜佐木の口から聞いた。そうしたら、いきなり怒り出したのだ。

「か、海燕くん。そこまで怒ることじゃないんじゃないかな」
「そうっすよ。そのおばさんだって悪気があったわけじゃなくて、むしろ善意の塊みたいなもんでしょ」
「は?何言ってんの檜佐木。何で東仙隊長だけなんだよ」

東仙と檜佐木は顔を見合わせた。話が微妙にかみ合ってないようだ。まさか。檜佐木の予感は的中する。

「何で東仙隊長はもらえて俺はもらえねーんだよ!」

開いた口が塞がらない。それは檜佐木の隣の東仙も同じだったようだ。はじめは冗談でも言っているのかと思ったが、彼の真面目な表情を見るとそうでもないらしい。海燕の言い分は間違ってはいない。しかし、世間一般的に言えば明らかにおかしい意見なのだ。

「海燕くん。多分その女性は目が見えない私をかわいそうだと思ってこのお金を手渡してくれたんだと思うよ」
「そんなの関係ないじゃないすか!」

「え」と檜佐木は間抜けな声を出してしまった。海燕は檜佐木の方を向いて、大きく口を開けてもう一度言う。「そんなの関係ないっつーの!東仙隊長だけずるい!」
その後も海燕は文句を言っていた。「ちょっと俺探してきます」と言って、その女性を探しに行き、10分後くらいに悔しそうな顔をして戻ってくる。檜佐木は呆れ、東仙はにこにこと笑っていた。

「あーちくしょーどこにもいない」
「当たり前じゃないっすか。第一、おばさんの特徴も聞かないで言ったくせに。見つかるわけないですよ」
「うるせーよ。…あ、ちょっと東仙隊長。自分だけお金もらえたからって何笑ってるんですか」
「あはは、ごめんごめん。そういうことじゃなくて」
「あーあ。いいなー。東仙隊長、ラッキーでしたね」

海燕があまりに残念そうに言うので檜佐木はたまらずふきだした。海燕はその檜佐木に「お前ももらえなかったくせに笑うんじゃねーよ」とつっかかる。東仙はそんな二人を見て、「そうだね、私はラッキーだった」ともう一度笑った。






(5000円札)
海燕と東仙と檜佐木
2006.2.22
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一度やってみたかったチルドレンパロ。
陣内が海燕、永瀬が東仙、優子が檜佐木。武藤はイヅルあたりがいいと思います。