「俺もわからないけどさ」
 ティエリアからの視線が一層強くなったと感じた。彼女は答えを待っている。謎でみたされて破裂してしまいそうな少女へ、すでにそれらの謎を無視できるようになった大人が言えることなど、そう輝いてはいないのだ。
「…でも、まだ死にたくないなって思うよ」
「答えになっていない」
 だからわからないって言っただろう?ロックオンは困ったようにして微笑んでみせた。彼にもかつて、わからないことがたくさんあって、それはきっと大人になればわかるのだろうと思っていた。でもやっぱり、わからないことだらけだ。大人のまわりも子どものまわりも、世界は平等に矛盾と疑問で満ちあふれている。
「人間にも動物にも植物にも、それどころか無機物にだって、死は訪れているんだよ。肉体としての死、精神としての死、物体としての死。俺もお前もいつか死ぬ。でもそれまでの間にしている呼吸だとかを、俺は無駄なことだとは思わない。世の中には意外と無駄なことって少ないんだ」
 腕をのばして、ぽん、とティエリアの頭を撫でた。その手の下で納得がいかないような顔をしている彼女を、ロックオンはかわいいこどもだと思う。まわりの少女たちより大人びた風に見せたって、ティエリアはまだ瑞々しい十七歳なのだ。
「ティエリアは、死ぬのはこわい?」
「…まだ経験したことがないのでわかりません」
「俺もだよ」


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「もうすぐ校門を抜けてしまいますね」
「…そうだな」
「校門を出ればそこは学校じゃありません」
「そりゃあそうだけど…それがどうした?」
「つまりそこではあなたと僕は教師と生徒ではない」
 彼がどきりとした時、すでに車は校門を抜けていた。制限速度は一気に六倍まで跳ね上がっている。言葉を発そうとしても、すっかり彼女に先回りされているようだ。
「先ほどの続きを聞かせてもらえますか?」