※現代パロディだか何パロディかわかりませんが、ゲイくさいおせんちBLを目指して見事に失敗してしまった感の溢れる話です
※ロクアレロクだけど、なんか別れ話です
※熱があるときにかいた 電波なはなしですがそれでよければ






「何で?」
ドアをあけて顔を見合わせた開口一番にロックオンは不機嫌そうにそんなことを言った。彼が訪ねてくる可能性をすっかり失念していたアレルヤは、へ、という妙な声を発したが、けれど彼はすぐにその理由を思い出して、ああ、と再び口を開く。パジャマとして使用していた灰色のトレーナーだけでは、玄関先とはいえ、外の風にあたると少し肌寒い。目の前で寒そうにしているロックオンと同じようにポケットの中へ手を忍ばせようとしたが、すぐにスエットにはそれがついていないのだと思いだした。行き場をなくした手は、ただ布をざらざらとこすりあげている。
「・・とりあえず寒いし家いれてくれないか」
「えっと、それは、駄目です。そう、ダメですよ」
細く美しい線を描くからだを、できるだけ品よくみせるようなサイズの薄手のジャケットをはおって―ロックオンは自分のからだのもつ美しさやその麻薬性をしっかりと理解していたのだった。そしてそれを効率よく使う方法をよく知っている―首元にはマフラーを巻いただけの彼はひどく寒そうに見えた。そういったロックオンのやけに少年らしい表情を見ても、アレルヤはもう、彼を家にいれたり、愛くるしいと微笑みかけることはできないのだった。
「だって僕たちもう付き合っていないんだもの」

アレルヤがロックオンへ「もう僕たちは終わりにしましょう。今までありがとうございました」という、たった二行で構成された別れのメールを送ったのは昨日の昼間だった。そのメールを送信して、携帯電話を少しだけ操作した後は、ずるずると昼食のうどんをすすって、夕方からのアルバイトのための準備にシャワーを浴びてひげをそり、仕事から帰宅すると帰りがけにコンビニで買ってきたおでんを食べながらこたつに入りニュース番組をぼんやりと眺め、図書館で借りてきた本を少しだけ読んで、彼をおそいはじめた眠気に逆らうことなく布団に入った。ありふれた当り前の日常生活は、あんがい忙しいもので、その間に携帯をチェックする時間を、アレルヤは用意しなかったのだった。もしかしたらロックオンは何度か電話くらいはしたかもしれないし、していないのかもしれない。
「・・俺お前になんかしたか?」
「いえ、何も」
「じゃあ何かあった?」
「それも・・ないですね」
しいていうならば。アレルヤは自分が振られるはずがないとおそらく思い込んでいるのであろう、一日前までは確かに自分の恋人として愛していた男へと続ける。
「気がついてしまったんです。突然。洗濯物を干したあと、お昼ごはんまでの間にぼんやりとこたつに入りながらテレビを見ているときに、あ・ロックオンと別れなくちゃいけない、って。理由はそれだけです。納得いきませんか?いかないって顔してますね。でも、僕からみるととてもシンプルで単純で、一番納得のいく理由だと思うんです。理由がないことが理由。こうやって言葉にすると、なんだか哲学的ですね」
ロックオンはわけがわからないという顔をしている。アレルヤはにっこりと微笑んだ。彼の微笑みはいつだって聖母のようにすべてを赦すようで、少しだけおそろしい。ぴゅうと風がふいて、彼らの対照的なそれぞれの髪をゆらした。アレルヤの体内で、ハレルヤがはんと笑う。それがどちらに向けられたものなのか、アレルヤは永遠に知ることができない。
「アレルヤの言う哲学はいまいちよくわかんないけど」
「でも、僕はもうあなたと別れなくてはいけないんです」
「お前がいいならそれでいいよ」
呆れたようにロックオンはちらりとアレルヤを見るけれど、アレルヤはにっこりと微笑み続けるだけなのだった。きっと彼はどこかですぐに復縁できると思い込んでいるのだろう。すぐにアレルヤが泣きついてくるとさえ思っているのかもしれない。しかしロックオンは知らない。アレルヤはすでに、携帯電話の電話帳から、ロックオン・ストラトスという名前を完全に消去してしまったことと、アレルヤはロックオンの連絡先を全く覚えていないということを。ひとつの数字すら、覚えていないのだ。それはきれいさっぱり、彼の脳から抜け落ちてしまったのだった。
さようなら、僕の好きだった人。さようなら、僕の恋人。お別れの挨拶を済ませた元恋人が階段を下りていくその後姿を見届けてしまえば、恋人という枠から外れたロックオンは、永久に他人という位置に留まり続けるのだ。アレルヤはゆっくりとドアを閉めて、テレビをつけたままにしていた部屋の中へと戻っていく。




群像
(ロクアレロク/20090116)