後ろから抱き寄せて顔をうずめたその細くて白い首は、最後にそうしたときと何もかわらないのに、けれど彼は完全にかわってしまったのだとアレルヤは悟った。すう、とにおいを、感触を、すべてを確認していくように、ティエリアにふれていく。彼は何もいわず、アレルヤに抱き寄せられ、彼と極めて近い位置で呼吸し続けている。 「ねえ、僕のこと、死んだと思ってた?」 いたずらをするようにそう尋ねれば、ティエリアはほんの少しだけ困惑したようだった。少し時間をおいてから、可能性としては考えていないわけではなかった、と、控えめながらも言葉を選ぶようにそう呟く彼にアレルヤは不思議と心が満たされるような気がした。「相変わらず容赦ないんだから」彼はくぐもるような声でそういいながら、抱き寄せる力を強める。 「すまない」 「別にそういう意味で言ってるんじゃないよ」 ふふ、とまるで嬉しそうに微笑みながら、けれど彼は自分が本当にそれをつくれているのか、結局わからないのだった。耳にふんわりとふれる、ティエリアの美しい髪のやわらかさは心地よく、それでいてほんの少しだけくすぐったい。それはまるで幸福にふれているようで、けれど実際は姿すら見つけられていないのだろう。アレルヤは何だか身体中から何かがするりと抜け落ちていってしまう感覚に、すべてを奪われてしまう。ゆっくりと目を閉じて、彼はもう一度、息を吸い込んだ。 ティエリアの言うことも、間違いではないのだと思う。確かに彼は、この4年の間、死んでいたのだ。呼吸もしていたし、思考も働いていたけれど、それでも彼は生を止めていたのであった。細胞が壊死するのでも、身体が苦しいのでもない。それはまるで宙にふわふわと浮いていて、少しずつ分解されていくような感覚だった。分解されていった自らの分子は、再び彼の目や口や鼻から体内に入り込み、そして再構築されていったのだ。あそこにいた間、アレルヤは自分が人間のかたちをしていたのかどうかも思い出せないでいる。死を続けるとは、そういうことだ。 その四年間、目の前の少年のこの美しい首筋は、ひそかに細胞分裂を繰り返しながらも、けれど何らかわることなく白くつるりとしたままだったのだということは、アレルヤをひどく高揚させた。ティエリアの首は、手は、胸は、足は、全ては、あの頃のまま、清潔なかたちを保ち続けている。その中で、何かが決定的にかわってしまっていたとしても、やはりそれは美しいままなのだった。彼はのぼせてしまいそうなからだを、ぎゅう、と、ティエリアに押し付けている。 「生きていて、よかった」 アレルヤはもういてもたってもいられなくなってしまって、自らを完全に蘇生させるために、ティエリアへ唇をよせた。さよなら、死人の僕。 ミイラの死 (アレティエ/20081022) アレルヤおかえりなさい! |