※2期放送前にかいたので、リジェネの性格は捏造です。言葉遣いだけ少しなおしました。


「彼をマイスターにしたのは、もちろん能力も評価してのこともあるけれど、決してそれが本筋ではないんだよ」
そういってリボンズはにこりと薄く微笑む。白く細長い指でゆっくりとモニターにふれ、そこにうつる機体を遊ぶようになぞった。その様子をリジェネは微笑むことなどしないままじっと見つめている。
「ティエリアには一番働いてもらったんだ。表向きはね。だけど世界の摂理で決まっているんだ。そういういちばん危険な立場にたたせるのは、重要な人物じゃないんだって。人間が繰り返してきた愚かな歴史でもそうさ。そこに立つのは組織の末端なんだ。それこそ彼のように真実を知らされていない者だってこともある」
リボンズはいつだって饒舌だ。薄い唇から、すらすらと流れるように言葉は飛び出し、その場で口を開こうとしないリジェネにまるで包帯がからむようにとりついていく。彼はおしゃべりをすることが愉しいとでもいいたげに、けれどどこか馬鹿にしたように、再び口を開いた。
「末端というのは、いつだって、切り捨てていい存在なのだから」
眩しくなるほどの黄緑色の髪がゆれ、リボンズは再び微笑んだ。彼はこどもが無邪気に遊ぶように―それでいて仮面のようにつるりとした表情で―モニターをみつめている。彼曰く、末端として、今まで動かされていた、ティエリア・アーデを。
彼は気がついているのだろうか。こうやってティエリアをみつめている自分たちも、ヴェーダにとっては末端にかわりないということに。
「同じ顔を持つものがこうやっていわれるのは不快かい?」
「そうでもないかな」
肩をすくめて、鼻で笑うようにリジェネは答えた。ティエリア・アーデと自分。同じ顔をしていたって、全く別の個体じゃないか。リボンズは、それをわかっていて、あえて質問したのであろう。嫌な男だと思うが、そんなこと、リジェネにとってはどうってことなどないのだった。
「そういうと思った」
リボンズはやはり笑うのだった。

爆撃をうけ、その形をどんどんと失っていくティエリアの機体を、ふたりは見つめている。彼が何を思い、何のために戦うのか、ヴェーダとのリンクがきれた今、ふたりにはわからないことだった。
「かわいそうに。ティエリア・アーデは人間なんぞに影響されてしまった。よりにもよって、あんな不完全ないきものにね」
「‥彼は元から不完全だよ。君は自分で言っていたよね?ティエリア・アーデは切り捨てていい存在だったって」
「そう、元々不完全だった。けどさらに、完全から遠ざかってしまったんだよ」
リボンズの微笑を、リジェネはやはり不快だと思うのだった。つくりものの、全てをみくだしたようなそれ。薄いかわを一枚めくれば、また違った表情がでてくるのだろう。結局彼は、感情に侵食されてしまっているのだ。それは、ティエリア・アーデと何らかわらないことだと、リジェネは思う。
リジェネは、何もおかされない。感情にも、人間にも、ヴェーダにも、そして自分にも。
「ティエリア・アーデは僕達に比べてとても弱い子だね。けれど、僕達は彼に絶対かなわないよ」
「自分がいっていることが矛盾しているということに気がついてるかい?」
「‥そうだね」
失礼。そう言い、リジェネはゆっくりと微笑んでみせる。この日はじめてみせる微笑みは、あまりに美しいかたちをしていて、極上で、甘美なものだった。しかしその腹の中では、愚かな目の前の男と、かわいそうな少年を思う。矛盾をきらうリボンズを、リジェネはきらう。
(この世界に完全なものなど存在しない)
世界に存在するものすべてが愚かなのだ。けれどそれを、リジェネがリボンズに伝えることは、とうとうないのだった。




Sweet baby
(リジェネとリボンズ(捏造)/20081005/20081109加筆修正)