※一期後のはなしです



その街は、不思議なところだった。みどりゆたかで、静かな森林があるかと思えば、赤や黄色の奇抜な色をした建物も、ちらほらと存在している。また、広場には常に人がいて、けれどそれなのにどこか静かな場所。ここはやさしくて、そして何だか少しだけさみしい街だ。
涼しく透明な風が、ふたりをゆっくりと包んでいく。友人というには近く、恋人というには遠い距離で、刹那とフェルトはならんでいた。
「きれいな街だね」
「‥ああ」
そしてふたりは再び何も話さないまま、じっとそこに座っている。ロックオンのうまれた街。彼はここで、たっぷりの愛情をうけながら育ち、幸福を失い、憎しみにつかって呼吸していたのだ。
ふたりはその男のことなど考えず、ぼんやりとしていた。互いに別々のことを考え、悩み、想像している。ただひとつ共通しているのは、ふたりはこの国でよそものということだった。

フェルトが膝にかかえる、古びた麻のような色をした小さな紙袋には、この国の伝統といわれる指輪がはいっていた。先ほどふたりで立ち寄った博物館で、彼女が購入したものだ。王冠と、心臓のモチーフで、それは最近急激に大人びてしまったフェルトには、何だかふづりあいのように彼は感じる。
「前にね、ロックオンが教えてくれたの。この指輪のこと。クリスも知ってたし、有名なんだと思う。だから、どうしても買ってみたくって」
「はめないのか?」
「これ、どの指にはめるか、どういう向きでつけるかで意味がかわってくるんだって。でもそれを忘れちゃったからつけられないの。きっと、ふたりなら知っていたと思うんだけど」
それが本当の理由ではないことは、刹那にもすぐわかったが、けれど彼は何も言わないのだった。残念だな、と言えば、そうだね、と一言だけ返ってくる。フェルトがその指輪を結局どうするのか、彼は知らない。

「ガイドブックでも買えばよかったかな」
フェルトがそういうと、刹那はその日はじめて笑うのだった。つられるようにして、フェルトもぎこちなく微笑みをつくる。この街へ来たはいいものの、つまりよそもののこどもたちはここでは迷子であり、どこへいけばいいのか見当もつかないのだった。「帰ろう」と、刹那が言って、フェルトも頷く。帰る場所があるということはいいことだ。彼らには、帰る場所がある。
ふたりがそこから立ち去っても、街は何もかわることはないのだった。よそものはひっそりとやってきて、そっと去っていく。その間も街は、何事もないかのようなふりをして、呼吸をし続けている。




彼の街
(刹那とフェルト/20081005)